ある風景(回想前)

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 先日、中学校の同窓会に行ってきた。僕は卒業と同時に地元を離れたものだから、長く顔も会わせていなかった元級友達と酒を酌み交わし、過去に思いを馳せ、それを肴に語り合った。  思い出は美しいもので、当時は赤面し、穴があればそれに向かって叫びたくなるような失敗談も、熟成された酒のアテであるようだった。  初恋の避けるような痛みも、いとおしい古傷のぬくもりに変わっていたらしかった。何もかも美しく、彼らは(彼女ら)は大いに酔い、食べ、思い、語り合っていた。  ナナシ、と呼ばれた。僕のあだ名だ。古いあだ名、と冠を付けなかったのは、実は今でも呼ばれているからだ。つまり、卒業して地元を離れ、遠い場所で新たな営みを送る事なった僕に、新しい場所の住人らが付けたあだ名は、ナナシ。  
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