ある風景(回想前)

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 彼は随分と酔っているようで、水滴の垂れるグラスを煽り、また焼酎の水割りを頼んでいた。 「しかしナナシは、変わらないな。何て言うのか、そう、平凡だ。結婚はしてるんだっけ?」  いや、付き合って三年の彼女はいるけどね。そろそろとは考えているよ。 「早いやつらは二人、三人も子供がいるぞ。俺にだっている。可愛い娘が一人、来年は小学校にあがるんだ」  ……平凡で結構じゃないか。知ってるかい? 僕らの年代だと今が適齢期らしいぜ? 「なにほざきやがる、そんなの言い訳さ。三年も付き合ってて、プロポーズする度胸も無かったんだろう」  度胸、どうだろうか? 確かにプロポーズする機会がなかったとも言えるし、物怖じしてた気もする。面倒だったとも言える気がする。だけど、本当は判っていた。僕が結婚するのは、その時が来るかどうかだ。早いとか、遅いとか、意味がないのだ。ただ、僕の事情を目の前の酔っぱらいに説明したところで、話がこじれるのは明白で、僕は黙って苦笑いするしかなかった。  
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