ある風景(回想前)

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「誰を探してるんだ?」 と、僕をナナシと呼んだ酔っぱらいが訊いてきた。  いや、別に。知った顔があるかと思ってね。 「あいつだろ? お前は仲良かったもんな。知ってるか? お前があいつとつるんでばかりいたから、女子から恨まれてたんだぜ?」  え? 誰が誰を恨んでいたって? 「女子が、お前を、だよ」 と一つ一つを区切りながら、彼は下品に笑った。  あー、彼はモテてたもんな。別格に、モテてた。そうか、僕は恨まれていたんだね。 「そんなに気にするなよ。思春期の、ちょっとした嫉妬心さ。子供だったんだよ。女子も、俺達も、お前もな」  …そうだな。 「…昔は、良かった。昔は、ああ、本当に良かったよ」  
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