灰色の景色

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Xデーは11月1日、コロネット作戦のYデーは 翌年3月1日と決定した。 一方日本軍も米軍が11月に上陸作戦を開始する 日程も、九州と関東に上陸する作戦内容も正確に 見抜いていた。その上で「決号作戦」では15歳 から60歳までの住民2800万人が鍬や包丁、 竹槍を武器に軍人450万人と一緒に突撃する 肉弾戦が実行されようとしていた。日本軍が沖縄 で徹底抗戦したのも、本土決戦の準備時間を稼ぐ 為だった。国内の食糧不足は深刻で餓死者が現れ 始め、山のドングリを食糧にする案が真剣に議論 された。一億玉砕は誇張表現では無く、数千万の 日本人を殺すコトに嫌気が差して米軍が戦争を 終結するコトを狙っていた。誰もが本気だった。 ガタガタと鼓膜を乱暴に叩く音を聞きながら清二 は冷静に考える。 「大空で敵と闘うつもりが、まさか海の底で闘う コトになるとは思わなかった。本土決戦に投入 された者は全員が死ぬだろう。東京が占領された としても、ゲリラ戦が続くだろう。」 ふと、歴史の授業で教師が「油壷」の地名の由来 を話したコトを思い出した。戦国時代に関東地方 で一大勢力を築いた北条氏。その北条氏と三浦氏 が争い、敗れた三浦氏は全員湾で自刃した。湾は 自刃した人々の血で真っ赤に染まり、まるで油を 撒いた様に見えたコトから「油壷」と呼ばれる ようになったのだと。 自分達も同じだ。米国との決戦に敗れるのならば 全滅を選ぶ。来年の夏頃には世界地図から日本と いう国は消滅するだろう。生き残った日本人は 世界各地に離散する。それもまた運命なのだ。 窓から見える道を米軍のM4戦車がキュルキュル 音を立て砲撃しながら通る時がもうすぐ来る。 清二は周囲の乗客を見渡した。自らを死地へと 運ぶ列車が、少年ジョバンニと友人カムパネルラ を乗せた銀河鉄道の様に思えた…。
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