第1章

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第1章

「トラは前の親父に憧れて、刑事になったのか?」  不意に、嫌なことを訊いてくる。 「ああ。でも! 母の連れ子だった俺を今まで育ててくれたのは、あなただ。あなたには感謝しているし、尊敬もしている」  「……そりゃあ、ありがと」  今の父(養父)の頑固な顔が、僅かに緩む。  眉間のシワは相変わらずだか、口角が少し上がっている。顔色も酒のせい、以上に赤らんでいる。  俺には生き別れた父がいる。  両親は俺が8歳の時に離婚。俺は母に引き取られ、会うことはなかった。父の面影は朧気で、瞼の父というやつだった。  母はすぐに再婚したが、3年後に病で他界。   血の繋がりのない父と息子が、残された訳だが……本当に今の父には、感謝と尊敬をしている。  親戚やまわりからは、俺を施設に預けて、新しい人生を勧められたらしいが、 「うるせえ! コイツは俺の息子だって、俺が言ってんだ! 外野がガチャガチャ騒ぐんじゃねえ! 新しい人生? 新しい人生ならとっくに始まってるよ。コイツとの父子人生がな」  そんな養父に申し訳ない気持ちでいっぱいだが、俺は瞼の父に憧れていた。ああ、憧れてたんだ!  瞼の父は刑事で、あまり家にいなかった記憶だ。それが離婚理由だろう……と思い込んでいた。  それでも、たまに帰れば遊んでくれたし、父の犯人を捕まえた話に、俺は興奮し、強く憧れた。父は幼い俺の絶対的ヒーローだった。   「で、親父さんがどこに行ったのか、わかったのか?」  養父がタバコの煙を吐き出し訊く。 「母と離婚した後、刑事も辞めて、しばらく行方不明だったみたいなんだ。その後の足取りも、同僚だった人たちは、知っているっぽいのに、何故か言葉を濁して、逃げてしまって……」 「妙な話だな。息子が父を探しているのに、教えないなんて。……嫌な話だが、お前は会わない方がいい状況なんじゃねえか?」  養父は声を低くして呟く。 「借金まみれとか」 「俺もそれを考えたし、犯罪者になっていることさえ考えたよ。でも、父の同僚だった刑事から、何度もせっついたら、居場所を教えてくれたよ」 「おう、良かったじゃねえか……」   養父はそう言いながらも、複雑な表情をした。 「……で、会ってどうだった?」 「……俺の瞼の父はもういない」 「は?」 「新宿二丁目で女になってた。源氏名マナミ」  瞼の父はおかまの父になっていた。
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