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しばらくして、突然男の先輩がやってきてひとりひとりに番号を振り始めた。
私は2番で、その番号ごとに席替えをするらしかった。
2番のテーブルへと移動しようとするとそれぞれにテキーラショットが配られた。
私が、「え。これって飲まなきゃいけないの?」と不安そうに言うと女の子が、他の男に飲むように頼んでくれた。
私は、その男の子が嫌だと拒絶するのではと思ったが、すんなり瞬時に飲んでくれたので、安堵した。
その人にお礼を言い、移動した。
移動先のテーブルでは、男の先輩が真ん中にいて話をしていた。
それを見て、ああもう帰りたいな、と思わず逃げ出したくなったが、ここでそんなことをしたら尚更私がおかしいと思われてしまうと理性を奮い立たせ近くのイスを持ち寄り座った。
先輩たちの話を聞いているだけで話さずにいると、一人の男が突然、
「で、君名前なんだっけ。」と私を凝視して呟く。
彼の隣に座る同期の先輩は、気まずいような表情をしながらも、この私の名前を忘れた先輩のそういった愛嬌的な所を憎めないように、小さく、お前失礼だろ、と彼を叱った。
そのやりとりすら、まともに聞いていられないほど、私はひどく動揺していた。
怒りとも、恥ずかしさとも、なんとも言えない感情に満たされ、血の気が引いていくのがわかった。
私は完全に茫然自失となり、仮面のような笑顔を張りつけて、名前を呟いた。
そのあとも、特に興味もなさそうに彼は、別の話題を始め、私をなおさら萎縮させた。
あの一瞬の恥は、一体なんのためだったのだろう。
私は、やっぱりこんなところ来なければよかったと心底後悔していた。
だけどきっと彼にとって私なんかは今、見えているから相手にしているだけで、もう視界に入らなくなったら空気同然、もはや空気以下の存在になることもわかっている。
だからこそよけいにこんなことでいちいち落ち込んで傷ついている自分に嫌気がさす。
こんなときはいつも首に手をやり、奏太にしめられたあの痛みを思い出す。
心の痛みを体の痛みで消すことでいつも泣きそうになるのをこらえていた。
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