紫じみた空

5/8
前へ
/17ページ
次へ
彼は一体どういう意図で話しかけてきたんだろうと不信に思っていると、彼が突然、私の髪に手を伸ばした。 「碧さんって、髪、すごい綺麗だよね。」 男が髪を褒めるのは完全に企みがあるからだと思い込んでいたのに、彼の髪の触り方はまるで美容師がお客さんの髪をチェックしているかのようだった。 私は思わず笑いながら、 「なんか、美容師さんみたいだね。」と答えた。 私に笑われて焦ったのか、慌てて手を引っ込める。 「いや、俺の姉貴が美容師やってて、しょっちゅう髪の毛いじられたり、カットモデルの写真見せられて意見聞かれたりするから、俺も普段から人の髪の毛をつい見ちゃうようになっちゃってさ。別に変な意味はないんだよ。」と弁解した。 「そうなんだ。お姉さんと仲が良いんだね。」 「うーん。まあ普通だよ。年が離れてるから、使いっ走りにされている感じはあるけど。」 彼がお姉さんに使われている姿を想像してまた笑った。ふと、彼が私の名前を覚えていてくれたことに気づき、どうしようもなく感激した。 「そういえば、名前、覚えててくれたんだね。ありがとう。」 お礼を言うと彼は驚いたように目を見開き、 「そんなことで感謝なんてしないでよ。それくらい当たり前でしょ!これから一年一緒なんだだから。」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加