紫じみた空

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「それって、何。俺が行った方が良いって言ったから仕方なく行ったってこと?だいたい、俺に嘘つくなって言ってるだろ。顔見れば分かるんだよ。なあ。」 奏太がまた私の首に手をかける。 今まで以上に、このまま窒息するんじゃないかと思うくらい苦しくて涙が出て来た。 「俺がいないと生きていけないって言ってたのに、それも嘘なのか。飲み会だって途中で帰ってくればいいじゃん。俺のいないところで笑って楽しい時間過ごして来たんだろ。誤摩化すなよ。正直に言ってくれたらこんなにやらなくてすんだのに。お前がいなくちゃだめな俺はどうしたらいいんだよ。」 泣きながら彼の目を見るとうっすらと涙を浮かべているのがわかった。 彼を苦しめてしまった自分に嫌悪を抱いた。 私が悪かったんだ。 そのまま奏太は私をベッドに叩き付け、跨がり乱暴に服を剥ぎ始めた。 私はいつもこうやって愛情というよりは嫉妬だとか怒りや傷からくる情動的な方法でしか奏太とはしていないことにまた気づかされた。 啓介との会話は短時間だけだったけど、奏太との時間が異質に感じられるほど、世界を揺るがされたのだ。 寒さで目が醒めて、ベッドサイドにある時計を見るとまだ朝の4時だった。 水を飲もうとベッドから抜けようとすると奏太が私の腕を掴みながら寝ていた。 昨日の彼の激しい怒りと奥深い悲しみを一晩中ぶつけられた私は、すっかり彼の黒い絶望的な世界に引き戻されてしまって、啓介と話した事などもう何十年も前の話のように思えた。 そっと腕を抜いてベッドを出てカバンのなかにあるペットボトルを取り出そうとすると携帯の着信ライトが点滅していた。 普段奏太以外の人とやりとりをしないため、誰からだろうと不安になった。 開いてみると、昨日連絡先を交換したばかりの啓介だった。 いつもはどんなに聞かれても奏太以外の男に連絡先を教えるなんてことはしないのだけど、昨日は変な高揚感もあってつい教えてしまったのだった。 ドキドキしながらメールを読む。 「今日はおつかれさま。また来週ゼミがんばろう。」 たった二行のメールだったけれど、奏太以外の男と連絡を取るのは久しぶりで無意味に胸が高鳴った。 誰かと出掛けた後、こうやってフォローのように連絡をいれてくるのが私は少し好きだった。 奏太が寝返りを打つ気配を感じて、彼に気づかれたらまた怒られる、と急いでベッドに戻った。
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