紫じみた空

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今までだったら考えられないけれど、それからは、啓介とお昼を一緒に取ることが増えた。 以前は女の子と過ごすことが当たり前で、近くに男の子がいるだけで耐えられなくなりそうになっていたけれど、どうしてなのか啓介だけは側にいても平気だった。 それは彼を男として意識していないからなのかと思ったけれど、彼から声をかけられたり連絡がくると嬉しくなるのはやはり男として見てるからなのではないかと矛盾を感じる。 「今日もそれしか食べないの?」 「うん。でもこれくらいが普通だよ。」 私が持って来ていたサンドイッチを見ていつも啓介は、少ない少ないと笑う。 本当は人と食事をすることさえも嫌いな私なのだけど、啓介の前でならきっと食べられると思い、いつも手作りするようになった。 私は、誰かの家庭料理だとかお弁当とかを食べることができない。 その家庭それぞれの味が受け付けないのだ。 それは、決してまずいとか美味しいとかそういったレベルの話じゃなくて、ただその違いが怖くてどうしても食べられない。 「いつも気になってたんだけど、その首の傷ってどうしたの。」 啓介が心配そうに傷を見ていた。 思わず手で隠したけれど、もうずっと前から見られていたんだろうなとさっと血の気が引いた。 啓介に何て説明したらいいのだろう。 「ああ、これ。なんか虫にさされちゃったみたいで。」 できるだけ平静を装って答える。 答えながらも脳裏に奏太の顔が浮かび複雑な気持ちになる。 「ふーん。そうなんだ。病院行きなよ。」 特に気に留めた様子を見せずに、彼は手元にあるパスタに手をつける。 「うん…。」 「あ、てかさ、今度俺もそれ食べたいな。」 「え?」 私のサンドイッチを指差しながら言った。 「いつも見てると、美味しそうに見えてくるっていうか。」 少しだけ恥ずかしそうに目線をそらして、またフォークを手にする。 「そうなんだ…。美味しいかわからないけど、それでもいいなら、作ってみるよ?」 言ってから自分の言葉に驚く。 奏多にさえお弁当を作ったことなどなかったのに。 「ほんと?楽しみにしてるからなー。」 嬉しそうに微笑む啓介の顔を見ていると、自分がひどく場違いな感覚に陥る。 彼のように真っ当な人間に、私が関わっていいのだろうか。
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