朝焼け

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「昼間、電話したのにでなかったよね?どこにいたの?」 奏太の冷たい目が私を見下ろしている。 「ねえ。聞いてる?どこにいたか聞いてるんだけど。」 「学校だよ。今日は2から4限まで授業入ってるって言ったじゃん。」 「何その言い方。まるで俺が忘れてたみたいじゃん。」 「別に。」 「もういいよ。」 そう言って彼は私の首を掴む。またか、と思いながら受け入れる。 彼に掴まれた首からかすかな痛みを感じる。そこは彼のつけた傷なのだけど、その傷が痛むたびに生き ている実感を得る。もしこれがなかったら、私は自分で自分に傷をつけ続けていたと思う。だから彼か ら与えられる痛みはある種の快楽でもあり、生き甲斐、生きている証でもあった。 失神する寸前で彼は手を離す。 「なんかちょっと痩せた?いつもより軽い気がする。」 「奏太のこと考えるとご飯食べれなくなるんだもん。」 「なにそれ。俺のこと嫌いなの。」 はっきりとした二重で長い睫毛のせいでいつも伏し目がちになる彼の目が私を睨んでいる。 「違うよ。」 「好きとか嫌いとか超えてるの。どうしたらいいかわからなくなって、食べ物を噛むことさえわからな くなるの。奏太がいないと何もできない人間になっちゃったんだよ。」 呆れたように笑いながら彼が私を抱きしめる。 「いつも痛いことしてごめんね。首だって苦しいよね。でも、こうやって弄ることで俺が所有してるっ て思いたいんだよ。だから俺がいないと何もできないっていうのは俺自身が望んだ結果だから俺は嬉し いよ。」 「いいの。体が苦しさを感じるのは奏太がこうしてくれるときだけだから、そのときはいつも生きてる 実感もてるんだもん。」 「俺の存在が碧にとって全然プラスになっていないんだなって最近すごく感じるんだよ。だって、誰か がいないだけで生きていけないなんて絶対に人間としておかしいことだろ。でも俺はそれを望んでしま うし碧も受け入れてしまうから。俺達一緒にいると多分堕ちていくだけだと思うんだ。それでもまだ俺 といたいと思えるの?」 「奏太といないと生きていけないって言ってるじゃん。奏太と離れるのは死ぬようなものだよ。」
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