熱風

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「電車がホームに到着します。黄色い線の内側にお下がりください。」 アナウンスが響く 私は黄色い線の上を歩く。 サラリーマンに追い越される。 電車がホームに入り横を通り過ぎながら風を起こす。 髪が風に吹かれ前が見えなくなる。 それでも歩き続ける。 誰かが線路脇に立っていたのか、電車がけたたましく警笛を鳴らす。 その音に驚きからだがビクッと震える。 夏になり目を閉じると蘇る光景は、小学生の夏休み。 一人で校庭にあるうさぎ小屋でうわぎたちにキャベツをあげていたとき。 気づくと隣に高校生くらいの男が立っている。 彼もキャベツを持っていた。優しそうな笑みを浮かべながら彼は話しかけて くる。 「これ、特別なキャベツなんだ。きみもあげてみる?」 何も考えず、受け取り、キャベツを咀嚼しているうさぎたちにまたキャベツ を差し出す。 一度床に落ちたキャベツにはもう興味を持たないのか、次々と新しいキャベツが差し出される度に噛み付くうさぎたち。 全てあげ終わると、彼がまた話しかけて来た。 「よかったら家に来ない?うさぎと仲良くなれるものがあるんだよ。」 うさぎと仲良くなれるもの? 全く何かわからなかったが、日差しの暑さやうさぎにエサをあげた充足感から彼の言葉に何の疑問も持たずに頷いていた。 「おいで。」 彼は私に手を差し伸べてきた。 その手を掴みながら私はただ、暑いなあ、うさぎ可愛かったなあ、と考えて いた。
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