熱風

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彼の家に着くと玄関先の廊下で待つように言われた。 そこは、学校から歩いて5分程の一戸建てで、庭にはポピーやハーブなど色々な植物が植えてあった。 中はシーンとしており、誰もいないようだった。 彼がどこからか戻ってくると、嬉しそうに笑いながら、言った。 「気持ちいいことしたい?」 「え?」 外で鳴いているセミたちの音以外は自分の鼓動しか聞こえない状態で、彼の 意図することが少しずつ見えて来て、急に怖くなった。 「そう。うさぎから好かれるようになるよ。どう?」 彼はまだ最初に見た時のような微笑みを張りつけてこちらを見つめている。 理路整然としていない会話だということなのはわかっているのに、動けなかった。 その目は絶対に逃がさないというような意志をギラギラとさせているように見えた。 けれど、恐怖に駆り立てられた私は、一目散に玄関へ走った。 サンダルのストラップも留めずにドアを開け飛び出した。 学校まで後ろを振り返りもせず走り続けた。 振り向いた瞬間に彼に捕まえられるのではないかと思い前だけを見て駆け出した。 ようやく自宅の玄関に辿り着いて振り返るとそこには誰もいなかった。 彼は、一体なんだったのだろう。本当に存在したのだろうか。 彼の手を掴んでいた手のひらを開いて見る。 逃げながらかいた汗が太陽に照らされてキラキラ光っていた。 彼の手の感触を思い出してみようとするが、気温の暑さに気を取られ彼の手のことなど何も意識していなかったことに気づく。 彼は、もしかしたらこの暑さのせいでみた私の幻想幻覚なのかもしれない。 家に入り鍵をかけた。 母親にこのことを話そうか迷っているうちに部屋でうたた寝をしてしまった。 再び起きた時にはもう夕食ができていて、私はすっかり彼のことなど忘れて いた。
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