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数週間後、近所で変質者が出たという連絡が朝礼で発表された。
その内容は、高校生くらいの男が小学生の女の子に話しかけて家まで連れ込もうとするという事件だった。
その子は、警戒して男から走って逃げ、学校へ向かい担任に報告したことから発覚したという。
それを聞いて、私は思わず自分の身に起きた出来事を思い出した。
あれは、この件と同じなのだろうか。あの男が、また誰かを狙って起こしたのだろうか。
私は、変質者の家に行ってしまったのだろうか。
悶々と体育館で一列に膝を抱え座りながら考えていた。
その後、学校からの警告を聞いて何人かの少女たちも連れて行かれそうになったことがあると話していたことがわかった。
どの子も、話しかけられた時点で危険を察知し、誰も家までは行っていないことに驚いた。
私が誰にもこのことを言わなかったから、次々とこんなことが起きてしまったのかもしれない。
だけど、誰も家まで行っていないなら、私が真実を話したらみんなからおかしな子だと言われる、そう思った私はそのことを誰にも言わないと改めて決心してしまった。
それと同時に、「誰でも良かった。」という言葉が頭の中で繰り返された。
そう、彼にとって誰でも良かった。
相手になるなら、「私」である必要なんて一ミリもなかったのだ。
感じる必要のない、喪失感を抱き、胸が苦しくなった。
このときから、私は「私だけ」を見つけ出してくれる人に固執するようになっていった。
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