第1章

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 俺の部活は茶道部だ。もちろん俺の意思ではなく、家族の意思で宣伝活動という名目で入っている。そっちの方が小遣いが3割増しになるからだ。  俺はその宣伝活動をして得た金で彼女の珈琲を飲みに行く。珈琲部があれば、俺は迷わず入り、彼女の気を引こうとしているだろう。  彼女の店が目に入った。背筋を正し、自分に暗示を掛ける。俺は珈琲が好きで、今が夏でもホットのブラックしか飲まない。彼女の店の珈琲は世界一美味しい。お冷は絶対に口にしない。  店に入ると、彼女が目に入った。今日もきちんとしたウエイトレス姿だ、この姿を見るために俺はここにいる。 「いらっしゃい、今日もいつものでいいの?」 「ああ、もちろん」  豆の種類などわかるはずがない。お茶の種類だってわかっていないのだ、彼女に出されたものをきちんと頂く。これが俺の流儀だ。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」  まずは香りを嗅ぐ。もちろんわからない。どの珈琲だって同じだ、セブンの豆から挽いた珈琲も缶コーヒーの味もわからないのだから、意味はない。ただのスタンドプレーだ。 「ねえ、そういえば知ってる?」
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