第1章

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 冬休みに入って部活動もなかった俺は仕方なく、家の手伝いをした。何も考えずに働くのは嫌いじゃない。単純な力仕事が以外にも頭を軽くしてくれる。  10月に取り入れた四番茶を運んでいると、体が動かなくなった。うちの店の前に知っている人物が現れたからだ。そいつはマフラーと耳宛をつけたままじーっと看板を眺めている。  どうして彼女が?  半年といっていた期間よりも二ヶ月も早い。 「お、やっほー」 「どうしたんだ、いきなり」  俺は茶葉を担いだまま答える。この重い袋がなければどこかに飛んでいきそうなくらい不安定になる。 「ん?新年はやっぱり日本で過ごしたいなと思ってさ」 「そっか。ってそうじゃない」  俺は普通に会話していることに驚いた。彼女の自然な会話につられてしまったのだ。彼女にとって俺は本当に何でもない存在だったのだろう。だからこうやって時間が空いても店に気軽に来れるのだ。 「ねえ、知ってる?新茶ってさ……」 「知らないよ」俺は反射的に答えた。「お前が留学することも知らなかったし、お前がどこの国にいったのかも知らない。お前が……俺のことをどう思っているかも知らないよ」
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