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俺は答えながら泣いていた。ただ感情が溢れてきて、止めることはできないのだ。
「俺はお茶屋なのにお茶のことも、わからない。身近にあるものだってわかってないんだ、ましてやお前のことなんて……何もわからないよ……」
どうしようもなかった。ただ彼女の顔を見た時に最初に感じたのは恐怖だった。俺は彼女のことを何も知らない、彼女も俺のことを知らない、どうして彼女のことを知ろうとしたのかもわからない。
「そっか……」
彼女はそういって下を向いて黙り込んだ。その表情は初めて見るものだった。いつも明るい笑顔しか見たことがない俺にとっては複雑な心境だった。
「ごめんね、実はいいたいことがあったの」
…知りたくない。
心の声はそういっている。だが体が硬直して何もいえずにいる。
俺が黙っていると、彼女は顔を上げた。
その目元には微かにだが液体が帯びていた。
「私ね、実は深煎りコーヒーが好きなの」
「え?」
俺は担いでいた茶葉を落とした。袋から葉が零れ柔らかい音が砂時計のように流れていく。
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