Ab-No-Anomaly

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早々に呼び付けられたレイはアノマリーの公務を手伝うものとばかり思っていたが、実際は承認待ちから承認済みへと名前が変わった書類の山を運び出す仕事が待っており非常に驚いた。 「も、もう承認を済ませられたのですか」 「そうよ。こっちのちっちゃい山がダメだったやつ。差し戻し。それでこっちの山がオッケーだったやつ。筆跡は真似れるだけ真似たけど、一応サインが不自然じゃないか目を通しておいてね」 「畏まりました」 レイは普段ゼロがこの仕事にどれだけ労力を割いているのかを知っているだけに、経験を積んだそのゼロですら手を焼く稟議書を文字通り朝飯前に終わらせてしまったアノマリーに改めて舌を巻いた。素より従者と言う立場上ロゼルサスとは異なり疑いの目は向けにくい立場だが、それを加味せずともレイはアノマリーが怠惰によって仕事を適当に終わらせたとは考えなかった。 従者であるレイは、アノマリーが国を思うゼロの気持ちを裏切らないことも、アノマリーがその気になればこの短時間で仕事を終わらせる能力があることも知っているからである。 (やはりこの御方はゼロ様とはまるで毛色の違う異質な才気をお持ちだ。もしも、この力を常に国のために活かして頂けたなら……) アノマリーが王族の名を背負って動くことは滅多にないため、それを間近で見ると圧倒されるあまりどうしてもそのようなことを考えてしまう。しかし同じ場所でじっとしていられない風来坊な側面もまたアノマリーの本質の一つであり、型に捕らわれない発想や行動力の源でもある。ゼロ達はアノマリーに対して何か一つの役職を持たせることはできないが、頼りにならないと割り切ることもできない。その二律背反がアノマリーの存在を唯一無二のものとしているのであった。
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