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「朝食、持って来たわよ」
「あらどうも」
ロゼルサスが盆を持って入ると、アノマリーは眺めていたファイルを閉じて大きく伸びをした。
「やっぱり胸がなくなっても上半身に何か着込むのは慣れないわねえ」
「もう稟議は全部終わらせたんじゃないの?さっき書類を持ったレイと廊下ですれ違ったんだけど」
「少し時間があったから、調べ物をね」
「それは良いけど仕事机で食べるんだったら全部片付けてからにしなさいよね」
そう言いながらアノマリーが先ほどまで見ていたファイルにさり気無く目を落とすが、裏向きになっており背表紙も白紙であるためその正体は掴めなかった。
「ゼロも同じことで怒られてるのかしら」
「その通りよ」
ロゼルサスが苦笑しながら皿を並べ、それに押し出されるようにファイルや筆記具が机から消える。そんな中、アノマリーは先ほどの稟議の仕事で見た覚えのない書類が置かれていることに気が付いた。
「これ、何かしら」
「昼前に入ってる面会の予定と、事前確認の資料じゃないかしら」
「ああ。レイちゃんが置いて行ったのね」
「ちょっと、それ止めなさいって言ってるでしょ」
アノマリーは紅茶を啜りながら反対の手で書類を立てて眺めていると、ロゼルサスの苦言も耳に入らなくなる程の脱力感に苛まれた。
「ねえ義妹ちゃん。この国の審査機関は正気なの?」
「私にそんなこと言われても……こう言う案件を調整してるのはゼロ以外だとロイとレイがやっているわ」
「呆れた。後でオシオキね」
「そんなにしょうもない内容なの?」
「……」
「……!」
回答の代わりにアノマリーから無言で手渡された書類を見て、ロゼルサスも目を丸くした。
「川を挟んだ隣町との交流が盛んになったから、飛べない種族のことも考えて橋を架けたい……その説明と、御挨拶も兼ねて面会を希望します……」
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