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「さあ、此方へ」
「ど、どどどどどうもすいませんわざわざご丁寧に……」
丁重に持て成すための客室や正式な会議室もこの城には幾つか存在しているが、ゼロは親しい間柄を望む者についてはこうして書斎を兼ねている巨大な図書室に招待すると言う流儀を持っている。
途中様々な閑話を挟み、それに関する本を棚から取り出して語らい合う。木材と古紙の匂いに囲まれて、ロゼルサスの淹れてくれる紅茶を啜りながら互いの知見を深め合うコミュニケーションをゼロはとても大事にしていた。
(ええっと、この娘……チミィちゃんって言ったかしら。先ずは緊張を解さないと……)
アノマリーもその姿勢をリスペクトして、可能な限り恐縮させないように振舞ったつもりであったがチミィは一向に表情のこわばりすら和らぐ気配を見せなかった。
「その種族や体躯のハンデを跳ね除けて町の長を務めるその手腕、改めて敬意を表する」
「いえ、そんな。私なんて取るに足らない小ウサギなんです。ただ皆がやれ、やれと祭り上げるものだから仕方なくやっているだけで……」
(だからあ、それが凄いって言ってるのよ!)
褒めれば謙遜され、問い掛ければ怯えて身を竦める。この図書室に置かれている椅子は魔法で高さを自動で調整する機能が備わっているが、会話の度にペコペコと頭を下げるチミィをこのまま放っておけばやがて見えなくなってしまいそうであった。
「稟議書は読ませてもらったが、特に問題はなかったので認可しておいた。近々予算が交付されるだろう。後のことは任せるぞ」
「ああ、その件につきましては、一度差し戻された際に多大なご迷惑をお掛けして申し訳ございません。王様のお時間を無駄にしたとあっては全国民からきっと恨まれていることでしょう。どうかどうか深きお慈悲を……」
(ゼロ、貴方前回この娘に何かしたんじゃないでしょうね……?)
アノマリーは度を過ぎたチミィの小心具合に内心頭を抱えた。
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