Ab-No-Anomaly

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アノマリーはその会話を交わした後もチミィと相対する場所にある自身の席には戻らなかった。直ぐ側にある席を魔法で手繰り寄せ、高さを調整する。そして何らためらいもなくチミィの隣に座り込んだ。 「えっ……」 当然チミィは目を丸くして驚いた。しかし恐縮しているが故に、戸惑いながらも捉え方によっては失礼に当たる「離れてくれ」と言う言葉が出せなかった。それはアノマリーの狙い通りであり、隣り合わせのまま会話が進行する。 「あの、どどどどうして私なんかの隣に……」 「幅を狭めているとは言え、一対一で会話をするのに机を挟んで離れた場所から喋るのも非効率的であろう」 「それは、そうかもしれませんが……」 「それに書類を広げるにしてもお互い文字が反対向きでは見にくい。格式ばった作法よりも優先して話したいことが山ほどあるのだ」 アノマリーはチミィに口答えする暇を与えることなく、すかさず本棚の中から何冊もの本を取り出して宙に浮かべた。これらは魔法で内側の糸を解くことで、ページを分離させることができる。アノマリーはこれを利用して歴代の事業を記録したものの中から橋の建設に関係する資料を抜き出して机の上に並べた。 「隣町との間に橋を造りたいのだろう?」 「は、はい。距離が近い隣の町とは環境が似てるので取れる作物もほぼ同じで、今までは物のやり取りも殆どして来ませんでした。住民の行き来も川の狭い場所をジャンプするか翼のある人に運んでもらえば十分だったんですが……」 「稟議書には交流が盛んになったと書かれていたな。食料以外に交換するものが増えたと言うことか?」 「そうですね。私達の町は広い森林持っていて木材が取れるんです。逆に相手の町は平坦な未開拓地があって、近年畜産に力を入れようとしているみたいなんです。交流が盛んになったと言うよりかは、これから盛んになることを見越してってことなんですけど……」 「成る程。それなら牧場の柵や関連した施設を作るために多くの木材を隣の町に運べた方が便利だな」 似た者同士と俯瞰し過ぎず、将来の動向なども細かくチェックして先手を打つ手腕は、確かに町長に推薦されるだけのことはあるとアノマリーは感心した。
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