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十数分後、ロゼルサスはレイに出口まで案内されるチミィを目にした。その表情は非常に安らかで、時折名残惜しそうに面会の場であった書斎の方を振り返りすらしていた。自分が最後に目にした様子からは信じられないような変わりようである。
「上手く行ったみたいね」
「お陰様で。彼女は貴女が淹れてくれた紅茶をとても気に入っていたわ」
「……それはどうも」
完全な世辞ではないとは理解しているが、それだけでチミィが懐柔できるとも考えにくかった。当然、アノマリーがロゼルサスに向けて口にした最後の言葉から嫌な想像が沸き上がる。
「まさか、その姿で色仕掛けなんてしてないでしょうね」
「まさか!」
アノマリーは「軽く揶揄っただけだ」と返した。
「大切なのは、過度な謙遜や恐縮がこっちにとって迷惑だって言うのをちゃんと伝えることよ。ちょっとだけスキンシップも使ったけど」
「え、迷惑だって言ったの?」
ロゼルサスは目を丸くした。色仕掛けは論外であるとしても、遥々自分の城を訪れてくれた客人に対して「迷惑」だと口にすることもゼロならばまずしないことである。
「言ったわよ。こっちが喋りにくいし、全然話が進まないし、正直うざったいし」
「それで、あんな笑顔になるのね」
「ええ。腹括ってマトモに喋ってくれるようになったわ。元が聡明で要領の良い子だから、私も楽しくなちゃった。あの子、色仕掛け覚えたら無敵になれる素質あるわよ。つい仕込んじゃうところだったわ」
「シャレになってないから絶対に止めて。そんなの表沙汰になったら国家が傾くわよ」
「分かってるわよ。それじゃあ、昼食にしましょうか」
「え、ええ……」
ロゼルサスの妙に歯切れの悪い返事に、アノマリーは目を光らせた。
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