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ロゼルサスは先ほど町に降りることをゼロが楽しみにしていると口にしたが、その言葉では事情の半分しか説明できていないことをアノマリーは見抜いていた。もう半分とは即ちゼロの対となる人物である。
「ゼロは町に降りるのを楽しみにしてる。でも、ゼロ『だけ』が楽しみにしているわけじゃないんでしょう?」
「な、何の話かしら……」
十中八九言い逃れはできないと分かっているが、ロゼルサスは湿っぽいアノマリーの目線から顔を反らして白を切った。
「私は買い物で何度も町に行ってるのよ。楽しみじゃないわけではないけど、ゼロみたいに一大行事だとは思ってない」
「まあ、貴女は王族どころか貴族でもないところから嫁入りしてきたんだものね。だからこそ使いを出さずに自らの足で買い物に出かけても自然で、庶民派アピールだと勘繰られることもない。その下地を作った上でゼロを誘うのはとても良い手だわ」
「……知ってたのね。町歩きがゼロの思い付きじゃないってこと」
「まあ何となく察しは付くわよ。町の視察ができて、親しみやすい王族のイメージを宣伝できて、白昼堂々デートもできる。一石三鳥ね」
「ッ」
ど派手な二羽の影に隠れていた三羽目の鳥を容赦なく撃ち抜かれ、ロゼルサスはギクリと身を硬直させた。
「風流才子にして文武両道、誰もが憧れ目を奪われる若き王を夫として隣に携えて、優雅に食事しながらイチャ付くなんて女の夢の具現化みたいなものじゃない。羨ましいわあ」
「それはあくまでも序でよ!本命はあくまで公務なんだから、とやかく言われる筋合いなんて……!」
「ええ、分かってるわ。これはあくまで公務なんだから、個人の感情で中止したりはできないわよね?」
「ッ……!」
ロゼルサスの体がもう一度鋭く痙攣した。
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