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アノマリーが言い当てた通り、ロゼルサスはゼロと町に降りる時間を貴重な交流と、交際の両方に割り当てていた。ロゼルサスはそれを見抜かれること自体は気恥ずかしさこそ感じるものの後ろめたいことだとは思っていない。しかし、問題なのはその先である。
「ね、ねえ。本当にこの状態で町に入るの?」
「だっていつもゼロこうしてるんでしょ?」
「そうだけど……」
城から飛んでウォンベルトの入り口に降り立ったロゼルサスは、アノマリーと片方の翼同士をを少し絡めて寄り沿っている。これは特別な間柄でしか行われない仕草であり、同種族でも体格差が大きいこの世界において翼や尾を絡めることは手を繋ぐよりもメジャーな行為である。
ロゼルサスが最も後ろめたく思っていたことは、ゼロと普段行っている愛情表現をアノマリーと行わなくてはならないことであった。
「おかしな仕草はしないでちょうだいね。今は追い打ちスクープ狙いの不届き者がどこに居ても不思議じゃないんだから、不仲説なんて流されたらゼロが泣いちゃうわよ」
「わ、分かってるわよ!まさか私が戒められる側になるなんて……」
アノマリーの忠告は揶揄い半分だが、不自然な動きを町民の前で見せる訳にはいかないと言う点には反論の余地がない。腹を括り、自分の脳をだますつもりで隣にいる人物はゼロなのだと言い聞かせた。
「あら今月もいらしてくれたんですね。大変光栄です」
「うむ。此処を訪れるのを楽しみにしていたぞ」
今回はロゼルサスから事前に教えられたゼロが気に入っている露店を幾つか回り、最後にシダが勤めている喫茶店に立ち寄る段取りとなっている。当然ロゼルサスはその間アノマリーと未だに純情冷めやらぬ夫婦を演じ続けなくてはならない。時折アノマリーが身を寄せる度に鳥肌が立ち顔からは火が出そうであったが、周囲がそれを初々しさと誤解してくれていたことは幸いであった。
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