Ab-No-Anomaly

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「ロズ。一口どうだ?」 「それじゃあ貰おうかしら」 特に親しい者しか使わない愛称で呼ばれ、手渡された果実を半分ほど頬張る。気恥ずかしさと緊張で一杯になっている自分を揶揄うための行為だと内心糾弾しそうになったが、それはロゼルサスが思い描く本物のゼロが取るであろう行動と恐ろしいほどに一致していた。 (この人は今までゼロが町歩きをしてたことは知らなかったって言ってたけど、どこかで見てたとしか思えない……) ロゼルサスが教えたのはあくまでお気に入りの店や自分達を得意先と見てくれている者への接し方のみである。自身との町中でのコミュニケーションや振る舞いについて自分の口から説明することはあまりにも面映ゆく、互いの不利益だと分かっていたが黙秘を覆すことはできていない。しかしアノマリーはそれについて特に苦言を呈することなく、ゼロの気質に対する理解だけを頼りに立ち回って見せた。 町民から怪しまれずに済んだことは幸いだが、それに貢献した再現度の高さはそのままロゼルサスを戸惑わせることにも繋がった。 「見物人が予想以上に増えてきた。このままでは混雑を招きかねない。少しルートを変えて広い通りに出るとしよう」 「ええ、それが良さそうね。最近は結構落ち着いて来たと思ったのに……」 「例のニュースが原因だろう。野次るつもりはなくとも、無意識の内に関心が煽られてしまっていると言うことも十分にあり得る」 ロゼルサスとしてはこのまま路地裏にでも駆け込んで帰ってしまいたいくらいであったが、アノマリーと民の目がそれを許さない。ゼロを再現した合理的な思考により更に広い場所へと引っ張り出されてしまい、試練は更に過酷なものと化した。
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