Ab-No-Anomaly

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二人が出た大通りは、城下町であるウォンベルトの中でも特に様々な施設が集まり賑わいの絶えないメネラウス通りであった。最終的な目的地であるシダの働く喫茶店もこの通りにあるため間違った道ではない。 しかし当初通る予定だったルートよりも遥かに広い道幅があるため、ギャラリーもそれを活かして遠慮なく遠巻きに群がった。 (未だにこれだけは慣れないわね……) ゼロと異なりごく普通の家系からこの立場まで上り詰めたロゼルサスは、あらゆる方面からから目線を浴び、文字通り見世物にされていると言う感覚が苦手であった。公共の場や何かしらのイベントでスピーチをする程度なら注目のされ方も限定的でありどうにか慣れてきたが、好奇の目に対する免疫は未だに不十分であった。 そしてもう一つ、群衆に囲われることで起こる受け入れ難いことがあった。 『ねえ、今ゼロ様がこっちを向いて下さったわよ』 『相変わらず凛々しい御姿。素敵……!』 老若男女が入り混じる多くの国民から支持を得ているが、特にゼロは若い女性から特別な人気があった。優れた容姿や魔法の能力、この上ない地位など好意を持たれる要素はいくらでもあるが、特に異性の観点からゼロを好む層がこうして堂々と取り巻きのような活動に勤しんでいることにロゼルサスは複雑な心情を抱いていた。 これら輩には他人の夫に向けて色目を使っていると言う自覚がない。もしゼロのいる前で堂々とロゼルサスに同じことをすれば、正常な感性を持った周囲の者達から「王の妃に何と不埒な言葉を投げ掛けるのか」と袋叩きに遭う。しかしその逆はどうにも許されている風潮となっていることが、自分の存在が軽んじられている証になっている気がしてならなかった。
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