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(別に嫁入り先の権力を振り翳したい訳じゃないし、敬われるより気軽に接して欲しいけど、婚約者として舐められるのは腑に落ちないのよね……)
「……」
アノマリーはどことなくロゼルサスの居心地の悪さを感じつつ、自身の役割を遂行すべくゼロに成り切って町歩きを続けた。演技の片手間に久々の帰郷も楽しんでいると、ふと手引きの屋台車が目に留まった。
「果汁を冷やし固めたアイスキャンディーか。この肌寒い時期には珍しいな」
「私のところのは文字通り一味違いますよ。このアイスにホットチョコレートを付けて食べるんです」
「ほう、それは興味深い。取り敢えず一セット貰おうか」
「ありがとうございます。お題は結構ですので!」
「そう言う訳にはいかない。是非代金を受け取って経済を回すために使ってくれ」
国王が口にしたと宣伝できれば莫大な広告効果が期待できるため、代金など受け取らなくとも誤差のレベルである。しかしこれはゼロならどう答えるかを考えなくとも、同じ王族であるアノマリーは意地でも代金を押し付けるのが正解だと確信していた。
「チョコレートは白と黒、どちらになさいますか?」
「ホワイトミルクチョコレートとビターなブラックチョコレートか……では前者にするとしよう」
(……!)
ロゼルサスはそのやり取りに小さな違和感を覚えた。
この問いには前例はなく絶対的な正解は確定していないが、ロゼルサスの脳内に再現したゼロがここで選択するのは黒であった。果実のさっぱりとした甘みと、ビターチョコレートのほろ苦い甘みのコラボレーションを楽しむ。ゼロと深い親交があればその姿を想像することは難儀ではなく、血を分けた姉弟であるアノマリーなら直感で黒を選べる筈である。
しかし実際のアノマリーが受け取ったのは円筒状のアイスキャンディーと紙コップに注がれたとろみのある白い液体であった。
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