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「貴女って人は……!」
いくら外面がゼロそのものであろうとも、無論中身はアノマリーである。ロゼルサスがゼロについての憂い事を思い出す程度には内面もゼロに近付くことができていたが、この不祥事で振り出しより前の地点に戻った。
アノマリーがアイスキャンディーを口に含む様子は、明らかに『別の何か』を咥える際の動作を想起させるものであり言うまでもなくゼロの内面とはかけ離れたものである。
「(ちょっと、何やってるのよ!?)」
「(つい、いつものクセで)」
あくまで小声であるが、ここまで以心伝心のコミュニケーションを保って来たロゼルサスが厳重に抗議した。アノマリーは溶け落ちそうなキャンディーを咄嗟に舐めた体を装ったが、その奇行が取り巻きの目に留まらぬ筈がない。
『み、見た?今の見た?あれが王族の色気なのかしら……』
『何かいけないものに目覚めそう……』
その言葉を聞いて先ほどのように心に蟠りが生まれるものとばかり思っていたが、意外にもロゼルサスの内心は自分で覚悟していたほど煮えくり返らなかった。寧ろ、冷たい風が吹いて心が落ち着くようであった。
(周りの人達には、あの下品な行いをゼロがやってもおかしくないと映った……何か、一瞬でも張り合う気持ちを持ったことがバカバカしく感じてきちゃった)
それは失望ではなくあくまで事実の再認識である。このような催しでしかゼロを間近で見ることのない大多数の者にとって、ゼロがプライベートでどのような仕草をするかなど知る由も無い。この外出の趣旨からしてゼロが民に理解されていないことに対して喜びを抱く思考は道理に反することであるが、ロゼルサスはその事実から余裕を得た。
しかし禁じられた愉悦はこれ一度きり。ロゼルサスはイメージダウンに繋がりかねない行為は慎むようにと改めてアノマリーに言い聞かせた。
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