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しかしここまでの道のりはある意味での前座に過ぎない。実のところ、次の目的地である喫茶店はシダが働くようになってから訪れるのは初めてである。ロゼルサスは働いている我が子を参観する楽しみと緊張と、少しばかりの気恥ずかしさで胸が躍る気持ちであった。
「此処がそうか」
「ええ。マーレアさんとトラフさんの狼夫婦やってる喫茶店で、古くから愛されてる憩いの場よ。ここのところ人通りが多くなって賑わうようになってから、シダが手伝ってくれるのがとても助かってると以前お礼を言われたの」
「素敵なことだな。シダがそこに落ち着くまでに一悶着あったと小耳に挟んだが、今度詳しく聞いてみたいものだ」
この群衆を連れて店に入ると迷惑になってしまう可能性があるため、内部の喫茶スペースとはまた別に露店として設けられている駄菓子屋の部分から中を覗く程度にしておこうと言う運びとなった。
適度に客を捌けている状況では、店内は狼夫婦が担当し子供の客が大多数を占める店頭の菓子類や玩具は同じ目線を持つシダが受け持つと言う分担になっており、店内に入らずともロゼルサスはシダに声を掛けることができた。
「シダ、元気にやってる?」
「この人混みはそう言うことか。来てたんだね母さん。それと、お、誰……?」
「!」
少し戸惑っている様子であったが、ロゼルサスの後ろに立っているゼロが別人であると言う看取に迷いがあるようには見えなかった。
アノマリーは確信を持って見破られたことに驚き、翼でブラインドを作りながらシダに顔を寄せた。
「良く分かったわね」
「その喋り方、叔母さん……?」
「ご名答よ。そんなに似てなかったかしら」
「何て言うか、佇まいがちょっと不自然だったから。それに父さんは、母さんが見てない時にはもっとキョロキョロしてるし」
「あらまあ」
ロゼルサスは俯いて額に手を当て、アノマリーは苦笑いを浮かべた。
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