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「ああ、楽しかった!」
散歩道を完走し、書斎に戻ってようやく自分を出すことを許されたアノマリーは弛緩した笑みで背筋を伸ばした。
「純粋な人望で注目を浴びたことってないから、新鮮な経験だったわ」
「邪な目で見てた人もいたみたいだけど……」
「そっちは慣れっこよ。女は男の色んな場所を見るけど、男が女を見る時なんて大抵ココよ、ココ」
「それは貴女がはしたない恰好をして放り出してるからでしょう。指差さないで、好い加減ゼロの姿を借りてる自覚を持って頂戴。それだからあんなことに……」
「まあ、まあ。今後は気を付けるから」
小言が始まりそうな気配を察知し、アノマリーは素早く話の腰を折った。仕切り直しをしながら机に向かい、端に重ねて置かれているファイルに目を通した。
「この後は外に出る予定はあるのかしら」
「今日はもう外出しなくて大丈夫よ。面会も極力減らしてあるから、誰かが来ることもないわ」
「本来だったらここで稟議の続きをするんでしょうけど、それは午前中に片付いたのよねえ」
「ええ。だからロイとレイに頼んで、明日の分を前倒しで……」
「やる気スイッチ、オフ!」
「ちょっと!!」
アノマリーが出し抜けに胸の先を指で突こうとしたため、ロゼルサスは慌てて払い除けて睨み付ける。
「寧ろヤル気はオンになるかしら?」
「そんなことどうでも良いでしょう!一体どう言うつもりなの、まだ公務中だって分からないの……!?」
「もう、エッチな話題になるとすぐムキになるんだから。揶揄い甲斐があるわねえ」
アノマリーはそれはそれとして、この後少しやりたいことがあるので時間を作って欲しいとロゼルサスに指図をした。本来であれば今日の分のタスクは殆ど完了しているため聞き入れる筋合いは十分だが、先程の一悶着や散歩先のこともありロゼルサスは懐疑的であった。
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