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ゼロの事前調整とアノマリーの効率的な作業により、今日やるべきことは全て終わっている。つまり、アノマリーがこれからやろうとしていることは公務ではない。ロゼルサスは多少の不安を覚えながらも、みだりに部屋から出ることなく変身も解かないと言う条件でそれを認めた。
「それは本当に今やらないといけないことなの?」
「そうよ。今だからこそやっておかないといけないこと。ゼロの助けになることよ」
「そこまで言うなら止めないけど……なら、どうして私には言えないの?」
「貴女には貴女の仕事があるからよ。余計な苦労掛けたくないじゃない」
「……!」
ロゼルサスは一度目を大きく見開いて、パチパチと何度か瞬きをした。次にキョロキョロと周囲を見渡し、その後もとにかく落ち着きがなかった。
「え、今ってこの部屋誰かに見張られてるの?」
「失礼しちゃうわね。だったらこんな話し方しないわよ」
「なら一体どうして」
ゼロならともかく、自分が庇護の対象になっていることがロゼルサスの直感に反していた。
「義理とは言え、貴女だって私の妹じゃない。護ってあげたいのよ」
「え。気持ち悪っ」
「酷い!」
これまで上の立場としてやることと言えば、揶揄ったり茶化したりするようなものばかりだったことをアノマリーは少しばかり反省した。
「さっき町を歩いて、最後に喫茶店に寄ったじゃない。その時シダちゃんにあっさり正体を見抜かれちゃってから、ちょっと考えるようになったのよね」
アノマリーはこれまで滅多に城に帰ることはなく、時折気まぐれで立ち寄る程度であった。血縁上は甥にあたる子供達とも滅多に交流はなく、本人の中でも忘れられていなければ幸いと言う程度の認識であった。
しかし、実際は自分が思うよりも遥かに子供達は自分のことを知っていた。シダはゼロが本物でないことを見抜いたばかりか、その正体がアノマリーであることも言い当てた。
側から見れば些細な出来事に過ぎないが、アノマリーに自分は家系の最年長者だと言う自覚を呼び覚まさせるには十分であった。
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