Ab-No-Anomaly

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この駆け引きにおいて、後手は踏めない。 ロゼルサスの主張は来訪者が重要参考人である時点で成立しなくなった。即ち自分の意見が通ると判断するや否や、アノマリーはそう一言告げて踵を返し、去り際にエニムをゼロの書斎に通すようにとレイに指示を出した。そしてロゼルサスには茶も菓子も一切不要、故に書斎には立ち入らないようにと釘を刺した。 「だ、大丈夫なの?」 「大丈夫よ。任せておきなさい」 足早に去って行く背にロゼルサスは声を掛けたが、アノマリーは振り向くことなく後ろ手にひらひらと手を振るのみであった。 「本当に上手くやれるのかしら」 「心配することはありません」 エニムを呼びに向かったレイと入れ違いになる形でロイが現れたが、レイと異なりいつもと同じように穏やかな表情を浮かべていた。 「アノマリー様は日頃の行いが災いして誤解を受けやすいのですが、根は決して不真面目ではないんですよ。ゼロ様と同じ血が流れていると、幼き日々を見てきた者からは自信を持って言えます」 「……ちょっと、根が深いところにあり過ぎる気もするけど」 「それについては仰ると通りです」 ロイは薄く笑ってロゼルサスのリラックスを誘い、その後は長い廊下の先を見通しながら耳を立てた。遠くから四足と二足の足音が聞こえたことを確認すると、それがこの場所に到達する前にロゼルサスを下がらせた。 「ロゼルサス様、此処から先は手出し無用。どうかこの王家の血にお任せ下さい」 「そうね。あの人ならともかく、貴方がそう言うのなら」 ゼロの不在で一時は心細くなったが、レイとロイ、そして不本意ながらアノマリーがこの城に確りと腰を据えているのだと言う安心感がロゼルサスを包み込んだ。不安は去り、自分には自分の仕事があると改めて思い直して廊下を後にした。
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