Ab-No-Anomaly

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「失礼致します。お客様を御連れしました」 「分かった。後は私が対応する」 「畏まりました」 レイはアノマリーの意を汲んでいつもより早いタイミング先導を切り上げ、代わりに残されたエニムが扉を開けた。 「御足労感謝する」 「此方こそ、貴重な時間を割かせてしまって申し訳ない」 二人は当たり障りのない社交辞令を交わしているが、既にそこには只ならぬ思惑が入り交じっていた。 エニムは初老の竜人でゼロやアノマリーよりも年上に当たる。ゼロは年功序列を崇拝していないが、年長者には敬意を表し礼を尽くす。アノマリーはそれに倣い本来は椅子から立ち上がって一礼すべきであることを理解していたが、とある予感を抱いたことにより敢えてそれをしなかった。 「……掛けても宜しいか?」 エニムもアノマリーの返事を待たず、あまつさえ口を開いて許可を出そうとした瞬間を見計らって椅子に座った。 「一応聞いておくが、今日はどんな用件で此処に」 「無論、貴方が引き起こした事故について話す為だ」 「・・・・・・」 疑いが確信に変わり、アノマリーの中で歯車が組み変わった。 「確かに至らぬ部分はあったが、私が起こしたと言うのは些か語弊のある表現だと言わざるを得ない」 「私は語弊などないと考えているが、まあこれ以上は水掛け論だ。本題に入らせて頂こう」 「そうしてもらえると助かる」 重苦しい空気の中、エニムは事故について語り出した。しかしそれは当時の状況等の捜査に使われる情報ではなく、その事故によって如何に自分の町が被害を被ったかであった。 「あの線路に使われていた鉄は我が町ウールウェスタンで採掘された鉱物を基に作られたものだ。枕木も駅の煉瓦も、貴重な資材を注ぎ込んだ。全ては国からの命を果たすために、誠心誠意対応させてもらった」 しかし、それが報われることはなかったとエニムはゼロを糾弾した。
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