Ab-No-Anomaly

37/54
前へ
/884ページ
次へ
「その誠意には痛み入る」 「口先だけの感謝で済まそうとは感心しない。誠意には誠意で返してもらわなければ。例え国王と言えどもその理から外れることは許されない」 「……随分と前置きを塗りたくって下地を固めたようだが、何が言いたい?」 「貴方の不覚が招いた事故について、その責任を取って頂きたい」 エニムの要求は凡そアノマリーの推測した通りであった。ゼロの鉄道を発展させる計画に協力したウールウェスタンは今回の事件で町ごと迷惑を被った。転んでもただでは起きぬと言わんばかりに、この電撃訪問は被害者の立場を有効に活用する手段として選ばれたのであった。 「責任は事件の真相を明らかにすることで取らせてもらう」 今エニムと相対しているのはゼロではなくアノマリーである。これを知られてはならないのは勿論のこと、エニムが何を要求してこようともゼロの意向を聞くことなく勝手な決断をすることは許されない。つまりアノマリーはゼロに成りすましていることを悟られないようにしつつも、エニムがゼロに求めていることを何一つ叶えることなくこの場を収めなくてはならないことを意味していた。 「そのような綺麗事で済ませることができるとでも?」 (さてと、面倒なことになってきたわね……) 当然ながらエニムは適当な慰めで満足して引き下がるようなことはしない。ここからはアノマリーがこの数日間で少しずつ蓄えた情報を使っての勝負であった。 「事件は調査中だが、今のところウールウェスタンが建設した駅やトンネル、並びに線路には目立った傷跡は見受けられない。金銭的な損失は殆ど出ていないものと思われる」 アノマリーは最もらしく書類を覗き込んでいるが、エニムから見えていないその表面は単なる町の地図である。情報が不足している部分はこのように推理と度胸で埋め合わせる他はなかった。
/884ページ

最初のコメントを投稿しよう!

594人が本棚に入れています
本棚に追加