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「ダメだ。それではまるで納得できない。今回の鉄道とやらに費やした資材や資金を全て補填してもらおう」
「……」
アノマリーは一通り言い分を吐き出させてから次のことを考えようと決め、ただ腕を組んで深く椅子に腰掛ける。
「先ほどは『再び悪意に曝されるかもしれないと言う人々の不安を払拭するのに時間が掛かる』などと、やたらと遠回しな表現を使っていたな。恰も、悪意に曝されること自体はもう二度と起こらないかのような物言いだ。しかし、違うだろう?」
最も恐れるべきは、再び襲い来るであろう悪意そのもの。今回の事件の犯人が捕まったところで根絶は不可能だとエニムは言い切った。
「貴様は余りにも強大な存在を敵に回した。科学だの人類学だの、小賢しい手品で人々を救おうなどとは烏滸がましい。赫々たる魔法を蔑ろにした者共には当然の報いだ!」
「……!」
エニムが肘掛けに勢い良く手を着き大きな音を出した。当然そのまま立ち上がろうとしたが、あることを確信したアノマリーが仰け反った反動でふわりと椅子から離れる方が先であった。
そして予想だにしなかった先制で動きが止まっているエニムに歩み寄り、背から首までを弓なりにしならせて上から顔を近付けた。
「町長殿の言い分はよくよく分かった。確かに今後に対する不安と要求には筋が通っていると言えなくもない。此処からは私の返答を聞いてもらおう。ゆっくりとな」
「な、なに……?」
靡かせるように指をバラバラに動かし、最後に立てた人差し指で下顎の先にそっと触れる。ゼロのイメージからは考えられないなめかましい仕草にエニムは動揺して顔を退かそうとするが、その隙にアノマリーは更に体を近付けた。
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