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アノマリーに後は任せろと言われたものの、退っ引きならなぬと言わんばかりの態度だったエニムが気になり、ロゼルサスは自分の仕事をこなす上での不可抗力を装って何度も書斎の側を通り掛かった。
「ロゼルサス様、どうされましたか」
そして遂にレイと鉢合わせしてしまい気まずい空気が流れた。
「あ、貴方も心配で様子を見に来たんでしょう?」
「いえ、私はアノ……ゼロ様に呼ばれました。お客様の御見送りをとのことで」
「えっ……!?」
それはアノマリーとエニムの対談に終止符が打たれたと言うことであり、事前の様子から考えて余りにも早い。
驚きを隠せないロゼルサスに自分もそうだと私見を交えて話したかったが、客人を待たせるわけにはいかないためレイは止むを得ず足早に去ってしまった。その後ろ姿を唖然と見送り、暫くして我に返ったと思った時には既に足が動いていた。
「本日は貴重な話を聞かせて頂き本当に感謝する」
「此方こそ、幾ら礼や詫びを尽くしても足りそうにない……」
客人が帰路に就く方向は決まっているため、その反対側から忍び寄ることは造作でもない。エニムと別れた後のアノマリーを、踵を返して再び書斎に入る前に捕まえて問い質した。
「一体何があったの?」
「どうもないわよ。ただちょっと『お話』しただけ」
「そんなワケないでしょ!」
適当にはぐらかして書斎に逃げ込むアノマリーを追い掛け、ついでに中で争いごとが起こった形跡が残っていないか見渡した。しかし当然そのような証左はなく、特筆できるものがあるとすれば机の上に積まれている見覚えのない書類の束くらいのものであった。
「何かの備えになればと思って用意しておいたけど、結局使わずに済んじゃったわ」
「……!」
ロゼルサスは書類を表に返し、それとなく目を通して驚いた。そこに羅列されていたのはエニムが町長を務めるウールウェスタンの収支一覧であった。
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