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「なのにあの人、鉄道計画がパーになったら大損だから補償を寄越せって言うんだもの」
「……まあ、そう言う人は時々いるけどね。それにしても町長が国王に向かって直々にそんな話をしに来るなんて」
「だから、さっきのデータを突き付けてサクッとお帰り頂いたわ」
実際はエニムが洗脳を施されていることにアノマリーが気付きそれを解除したことで目的は失われ舌戦は立ち消えとなったが、今回の事件を引き起こした人物が悪意を持たない者を手駒にして国にダメージを与えようとしたと言う事実は恐ろしいものである。それをロゼルサスが知れば、今後要人と関わり合う際に疑心暗鬼を生じさせてしまう憂慮は拭い切れない。
薄汚い話は自分とゼロが処理すれば良い。そのような穢れをロゼルサスや子供達の目に触れさせないと言う意志がアノマリーの中にあった。
「え?さっきそのデータは使わなかったって言ったじゃない」
(ギクッ……)
しかし誤魔化し方まではシミュレーションしていなかったため、渦中でアンテナの感度が高いロゼルサスには直ぐに嗅ぎ付けられてしまった。回答に窮しているアノマリーにロゼルサスが詰め寄ろうとしたその時、突然書斎の扉が勢い良く開いた。
「国王殿!」
「えっ」
飛び込んで来たのは何と肩で息をしているエニムであった。そこから僅かに遅れて血相を抱えたレイが追い付き申し訳ございませんと連呼しながら出口へ連れ戻そうとしている。ロゼルサスは愚かアノマリーも状況が飲み込めず呆然とした。
「その……今回の件で改めてお詫びをさせて頂きたい。先ずは友人から……あ、いや、食事会でも如何だろうか……!?」
「そのようなことは伝言で承りますので!お引き取りを!」
「「…………」」
呼吸と整え、妙な初々しさと女々しさを赤らめた頬に湛えてそう告げると、エニムはレイに袖を引かれて廊下に消えた。
「ねえ、本当に貴女この部屋で妙なことは何もしてないんでしょうね!?」
「し、してないわよぉ~」
操られていた時の記憶は残っていない筈であるが、洗脳を解く目的で精神に強い衝撃を与えた際に、その奥底に取り返しの付かないものを刻んでしまったのではとアノマリーは少しの懸念を抱いた。
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