Ab-No-Anomaly

45/54
前へ
/884ページ
次へ
その夜、宵闇に半分ほど紛れながら城に主が帰還した。物音を立てずに書斎に訪れ、天井に手を翳して明かりを灯す。そして浮かび上がったのは王たるゼロを迎え入れる無数の書籍と、いつの間にか目の前に立っていたアノマリーの姿であった。 「アッ……!?」 「あら、本当に見えてなかったの。相当お疲れみたいねえ」 「相当どころではない。私に関する恨みつらみが溶け込んだ濃厚な苦い汁を飲み干して来たところだ」 面と向かって話をする気力もなく、ゼロは作業机に備え付けている最も大きな椅子を魔法で手繰り寄せると、目一杯背凭れを倒して仕事をさせた。 「それで、そこまでやった収穫はあったのよね」 「勿論だ。山場は越した」 ゼロはぐったりとした様子ながらも満足げな表情を浮かべており、アノマリーはそれを見てようやく一安心した。 「今回の主犯はコンステレイションの副団長、アウリーだ。99パーセント間違いない」 「コンステレイションって、確かケセルちゃんとかマグナちゃんが好きなエンタメ一座だったかしら」 「そうだ。あの日私は事前に依頼した機関車の宣伝に関する打ち合わせをするためにウールウェスタンを訪れ、そこにケセルとマグナ、それに司も付いて来ていた。まあ、今思えば気安くそのことを喋ってしまった私も非がある。教えはするが連れて行かないと言うのは残酷だ」 「でも貴方がそこに行くことは、一座側だと団長しか知らなかったんでしょう。突発的にやったってこと?」 「計画自体は突発的なものだが、憎悪そのものは以前から持っていたそうだ。これを確認するために随分と苦労した。何せ一座の半数以上はアウリーと同じ思想を持っていたのだからな」 「それは……災難ねえ」 アノマリーは疲弊したゼロに掛ける言葉が咄嗟に見付からず、歯切れの悪い返事をしながら苦笑いを浮かべた。
/884ページ

最初のコメントを投稿しよう!

594人が本棚に入れています
本棚に追加