雪消の候

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口に戸を立てることはできない。それは人間だけではなく言語を使ってコミュニケーションを取る生き物全てに当て嵌まる不文律である。 それはゼロ率いる特別捜査部を支える礎でもあり、魔法の蔓延る世界でも地道な聞き込みが実を結ぶことができたのは「知っていることをひけらかしたい」と言う抗い難い心理のおかげであった。 しかし、理とは不動であり誰かに寄り添うことはない。薬になることもあれば毒になることもある。此処で起きていることは正に後者であった。 「あの日、父さんと母さんが店に来たんだけど……オレの方も直ぐにピンと来た。父さんは偽物だって」 レミューリアとラルフィが管理しているダムの畔で、司とゼロの子供全員が食い入るような目でシダの話を聞いていた。それもその筈で、シダの方からわざわざ全員を緊急事態と言う名目で招集していたのである。 「そう思ってこっそり聞いたんだ。そうしたら当たりだった。あの時の父さんは叔母さんが化けた姿だったんだ」 シダは首を右から左へ振りながら「信じられるか?」と問い掛けた。疑惑ならまだしも、シダが嘘を吐いていない限りはアノマリーが実際に口を開いて答え合わせをしたとあっては口の挟みようがない。 身内が仕掛け人とは言え、これまで接していた父親が偽物だった……そんなビッグニュースがもたらす衝撃は甚大である。何しろシダを含む全員は、アノマリーがゼロに成り代わっていたのがここ数日間であることを知らない。一体いつから別人だったのか、そんな不安とミステリーが脳内を埋め尽くす。 「ちょっと一飛びして確かめて来る!」 「ケセル、止しなさい。お父さんも叔母さんも、遊びでやってるわけじゃないんだから面白半分で首を突っ込むべきじゃないわ」 「ああ。オレもレミューリアの言う通りだと思う。面白半分で望むべきじゃないってところはな」
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