雪消の候

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当然次に関心が向くのは、何故そんなことが起こったのかと言うことである。通常であれば慎重に行動するゼロの思惑を子供が見透かすことは不可能だが、今回に限ってはゼロがアノマリーに影武者を任せて別のことをしているところまで考えが及べば十分であった。 「恐らく、父さんはこの間の事件を調べてるんだ」 このグループにはゼロが不在となった理由に関係のある当事者を三人も有しており、シダがそう言い当てるまでに殆ど時間は掛からなかった。その結論に達すれば、その当事者が騒ぎ出すこともまた当然の流れである。 「犯人まだ捕まってないのか……あのトカゲ野郎、隠れるの上手そうだしな」 「マグナは特に酷い目に遭わされたしね……」 マグナは恨み節を零しているが、司はそれが真相ではないことに薄々勘付いていた。狂暴なリオンの瞳の中に見た魔法陣とそれに強い関心を示したゼロの態度を知っていれば、事はそう単純でないことは推理できる。事件から数日が経過した今もゼロが城に戻って来られない現状からもそれは自明であった。 そしてあの時の機関車のように、幼さ故にブレーキが未発達の子供がこの流れの果てに辿り着く終着点はただ一つである。 「俺達も、父さんの手伝いできないかな」 司やケセルの活躍により、事件は奇跡的にただ一人の怪我人も出さず済んでいる。それ故に恐怖や苦痛が喉元を過ぎるまでの時間も早く、後に残った憤りや正義感がマグナを熱り立たせていた。 恣意的な理由で危険に身を乗り出そうとしているのであれば総出で止めることも容易いが、今回は悪に立ち向かうと言う大義名分を得ている。また周囲も仲間に危害を加えられて黙っていられない気持ちを持て余していた。その最大の被害者であるマグナが縮こまっていない以上は、慎重な意見が悪に屈したかのように思われてしまう空気が出来上がりつつあった。
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