雪消の候

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「バカじゃないの?」 そんなゆるりと間違った方向に流されて行きそうな空気を、正に凍り付かせるような鋭い一言が場に投げ込まれた。声の主は、この中で随一の発言力を持っているレミューリアである。 子供達に歳の差はないが、特にこのような話し合いの場においては発言の重みを決める風格と言うものが存在する。体が先に動くタイプであり熟考とは縁遠いマグナやケセルはお咎めを受けやすく、逆に思慮深いヴァイス等はその咎める側であることが大半であった。 「だっ、ダメかなあ……?」 特に冷静な判断力と物怖じすることなくそれを口に出せる胆力を併せ持つレミューリアは、同年代とは思えないほどの迫力で腕白達から恐れられている。その証として、マグナの語尾は窄み先程の勢いもすっかり鎮火されてしまっていた。 「ダメに決まってるでしょ。アンタ殺されそうになったの分かってないの?自分一人の力で助かったわけでもないクセに、また余計なことして今度は助からないかもしれないのよ」 「うっ」 レミューリアは四足で歩行する種族であるため、背中から突き出している氷の翼を手の代わりにすることが多々ある。今回も先端をやや尖らせた形状にした翼を指差すようにマグナに突き付け、強く警告した。 「わ、分かったよ。ちゃんと大人しく待ってるよ」 「分かってない!私に言われてそうしますじゃダメなのよ。そもそもそんな言葉が出て来るって時点で……」 「ああ、こりゃ長くなるぞ」 ケセルは決して本人に聞こえないように、風に紛れるほど小さな声でそう呟いた。その懸念通り、レミューリアの啓蒙はマグナは愚かその他内心で冒険の予感を感じていた者達を完全に意気消沈させるまで続いた。
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