雪消の候

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シダと共に遊ぶことになった四人は暫く去り際の歓談を楽しんだ後、「続きは城で」とようやく当初の流れを思い出したかのように解散となった。 「司、早く乗りなよ」 ルシアとジークは既に飛び立ち、ケセルも普段の調子でシダを背負ってそれを追う。すっかり元気を取り戻したマグナも来た時と同じように司を乗せて走り出そうと催促したが、司は文字通りそれに乗り気ではなかった。 「僕はちょっと寄り道したいところがあるから先に行ってて良いよ。昼頃には帰れるって、誰かに聞かれたら伝えておいて」 「え、寄り道ってどこに?」 「うーん、まあ……色々とね」 「そっか。じゃあ後でな!」 幸いマグナは追及したりすることなく斜面を駆け下りて去って行った。それを見届けると司もゆっくりと歩き出したが、向かった先は言葉を濁すほどのものではない。ただ順路に沿って山を下り、辿り着いたのは歓談時に先んじていなくなっていたヴァイスとフランソワの仕事場であった。此処は一見単なる農場のような形姿となっているが、ゼロが人間の世界から持ち込んだ動植物の研究をする実験場と言う裏の顔が存在する。 そのため、異世界の民である司にとっては馴染み深く、この世界の住民にとっては異世界のように感じると言う奇妙な空間になっていた。 「あれ、こっちに来たんだ」 土壌の手入れを行おうとしていたヴァイスが司に気が付いて歩み寄り、そのまま大木の陰まで案内した。 「ちょっと、聞きそびれたことがあってね。と言うよりかは、あの場では聞けなかったことかな……」 司は隆起した木の根の隙間に嵌ることができるポジションを探し、上手いこと腰を下ろす。そして尋ねたいことがあるとヴァイスに説明しながらフランソワを探したが、遠くの畑に見えたシルエットは二つ存在していた。
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