雪消の候

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これまで司が見てきたゼロの子供たちの姿は、義理堅く仲睦まじく、多少の衝突はあっても最後は深い絆を感じさせてくれるようなものばかりであった。 「でもまあ、気は合わないけど何だかんだで上手くやれるってことはあると思うな。兄弟なんだし」 だからこそ、司は二人の意見で生々しさを増したマグナとレミューリアのぶつかり合いが今更怖くなり真正面から向き合うことを避けようとした。しかし、自ら口火を切ってしまった以上はそう簡単にこの話題は収束しない。 「君……兄弟いなさそうだね」 「いっ、いないですけど」 いつの間にか傍にいたポールが話に入りながら司の顔を覗き込む。爬虫類をベースとした種族は他より顔と首の境界が曖昧になっており、まるで巨大な蛇の頭が滑り込んで来たような迫力に司は面食らった。 「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……僕、蝙蝠の血も少し入ってて耳が良いんだ」 「あら、もしかしてポールさんにも兄弟がいるの?」 「弟が一人ね。まあ今は一緒に暮らしてないし……何より、あんまり仲が良くなくて教えてなかった」 ポール曰く、フランソワと交流してようやくまともに振る舞える程度にはダウナー気質である自分と異なり、弟は騒がしく活発なタイプであるとのことであった。 「さっきも言った通り、僕は音に対して敏感でね。虫達の声を聞く分には良いけど弟は煩わしくて堪らなかったよ。喧嘩もしょっちゅうやってた。それも今となっては良い思い出に……なったりもしてない」 「なってないんですね……」 「歳を取ってからは喧嘩も減ったけどね。それ以上にはならなかった。別に恨んではいないけど……独りで暮らすようになってからも、特に会いたいとは思わないかな。兄弟がそんなものだって言いたいんじゃなくて、そう言う兄弟もいるってことね」 良し悪しではなく単なる個性の話だとポールは念押ししたが、それでも司は圧倒的な負のリアリティに漠然とした焦燥のようなものを覚えた。
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