雪消の候

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「余計なこと……言っちゃったかな」 「いえ、ためになりました。兄弟だからとか、時間が経てばとか、大人になればとかってあんまりアテにしちゃダメなんですね」 「ダメな例として記憶されるのは不名誉ではあるけど……まあ、そう言うことだね。僕のところも、親が干渉しようとしないタイプだった。兄弟はケンカの一つや二つするものだって……それじゃあ、仲直りするところまで見届けろよって話……いつも僕が兄だからって我慢させられて、それで何か良いことあったのかよって……」 どうやらポールは自らの手で良からぬ記憶の扉を開けてしまったらしく、かつて奥底に抑え込んでいた恨み節が止め処なく溢れ出た。暫くすると我に返り、主にフランソワの目を気にして酷く恥じ入るように頭を抱えた。 「ああ……ますます会いたくなくなったよ」 三人はそんな様子を苦笑いで見届け、この場はこれ以上持たないと言う結論を目配せで伝え合った。 レミューリアとマグナの関係をこのまま放っては置けないと言う確証を得たことで、この訪問の目的は達成されている。司としては目の前の惨状を抜きにしても早くマグナとコンタクトを取りたいと言う気持ちが強まっていた。 「司はこの後どこかに寄る予定はあるの?」 「このまま山を降りて真っ直ぐ帰る予定だよ」 「それなら僕が送るよ。マグナもケセルも先に帰っちゃってるだろうし」 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」 「フランソワ、後は宜しく頼むね」 ヴァイスが四つ足を折り畳み背を差し出す。これは単に司の帰宅を補助するだけでなく、同時に傷心のポールをフランソワと二人きりにすると言うファインプレーである。 (フランソワと同じ年の子供に、気を遣われた……) しかし、当の本人は忸怩たる思いにますます傷を深めるのであった。
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