雪消の候

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ケセル、マグナに次いで乗るヴァイスの背はそれらと比べて快適の一言であった。特に同じ陸路を往くマグナと比較すると瞬発力や最高速は劣るが、長く柔軟な四肢がサスペンションとして働くことによる安定性は抜群であり、未舗装の山道を駆けても衝撃は殆ど司に及ばない。シダが特等席の太鼓判を押すのも納得の乗り心地である。 「お疲れ様。お昼食べたらゆっくり休みなよ」 「疲れたなんてとんでもない。景色ものんびり眺められたし、楽しかったよ」 「結構飛ばしたんだけどね。以前よりも逞しくなったんじゃないかな」 「そ、そうかな……?」 司は照れ笑いを浮かべ、気分良くヴァイスと別れて城に帰った。何か残り物があるだろうかと思いながら食堂に出向くと、ロゼルサスがわざわざ昼食を準備してくれていた。 「すいません。手間を掛けさせてしまって」 「こんなの慣れっこよ。子供はナマイキなこと言ってないで、元気に遊んでれば良いの。それにしても、随分と早かったじゃない。ルシア達からは遅くなるって聞いてたけど」 「ヴァイスに送ってもらったんです」 「あら、それならあの子も食べて行けば良かったのに」 目の前に置かれたバスケットの蓋を開けると、そこには明らかに一人分よりも多い量のパンが詰め込まれている。司はそこからいくつかを選んで食べ終えると、ロゼルサスからお使いを言い渡された。 「あの子達はまだ食べ足りないと思うから、ちょっと早いけどおやつとして持って行ってあげて。シダの部屋にいる筈よ」 「焼きたてだったのはそう言うことだったんですね。分かりました」 「もし重かったら、ロイかレイを呼んで……」 「大丈夫です」 「あら」 司は利き手でバスケットを持ち上げ、もう片方を底に差し込むことで安定させた。特別な力は込められていなくとも、ヴァイスが掛けてくれた言葉は紛れもなく魔法の呪文であった。
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