雪消の候

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食べ盛りの子供達に食糧を携えた司は大歓迎を受けた。そこまではロゼルサスの想定通りであったが、成長は早く様々な方向に向かっていることから細かい見落としもあった。 「食べるなら一回ゲームから抜けてくれよ。駒とかカードとか、汚されたくないからな」 今遊んでいるのはゼロから買い与えられたものではなく、シダが自ら汗水を流して稼いだ金銭で購入した正真正銘の私物である。そのことから特別な愛着が湧き、物を大切にする心へと繋がって行く。 寝具以外にはあまり頓着を持たなかったかつてのシダを知っていれば、家族を始めとした誰もがその様子を成長の証と見て感心することは明らかである。しかし、成長して兄弟との距離が空いてしまったと言うポールの話を聞いていた司だけは例外であった。 (シダは正しい。当たり前のことを言ってる。それは分かってるけど……) 普段の性格から考えても先ほどの言葉に棘があるようには思えない。一緒に遊んでいるルシア達もそれを気にしている様子はない。 だがシダはこの瞬間、確かに失った。無邪気にパンを頬張りながら兄弟とボードゲームを遊ぶと言う機会を、物を大切にする心と引き換えに手放したのである。 このことに気付いているのは司しかいない。食事の有無があってもボードゲームで遊ぶことには変わりなく、この中の誰かが気付いたところでそれを損失だと考えるのは大袈裟だと諭されることだろう。それでも司は気掛かりだった。同時に、奥底に閉ざされていた記憶の扉が開いた。 「司はどうする。やる?食べる?」 「えっ、ああ……」 過去のことを思い出そうとしたタイミングでシダに声を掛けられ、しどろもどろとした応答になってしまった。司は既に食事を終えているため、普通であればボードゲームに参加するところであったが、ふと一人だけ食事を選んで席を外したマグナが目に入った。
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