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性懲りもなく事件に首を突っ込もうとするマグナを叱咤した際、代替案としてゼロに贈り物をして労おうと言うアイデアが出たことは、表にこそ出さなかったもののレミューリアにとって願ってもない流れであった。
「だけど、植物らしくないって所を除けばこれが最高傑作。贈るには申し分ない出来の筈だわ」
密かに磨き上げたこの技術を晴れ舞台で堂々とお披露目することができる。他の兄弟が持ち寄るであろうどんな逸品よりも優れた贈り物になると言う自信があった。
(お父さん、喜んでくれるかな……あたしのプレゼントが一番だって、皆の前では言わないでしょうけど二人きりの時になら……)
レミューリアは同性のラルフィやフランソワと比べて、年相応の子供らしく親と接することを大の苦手としている。甘えたいと言う気持ちよりも、大人びた態度を取りたいと言うプライドや照れ臭さがどうしても勝ってしまうと言うのが原因であり、決してゼロを邪険に扱いたいわけではない。
しかしそれはレミューリアが内心そう思っているだけで、本人に伝わっている確証は何もない。思い違いが大きな溝になってしまう前に、今までの分を逆転できるような足掛かりが欲しい。そう願っていたレミューリアに、大きな事件に立ち向かっているゼロに労いをすると言う好機が舞い降りた。
「いつ贈るかはまだ話し合ってないけど、もう一つくらい作れるかしら」
「……いや、これを仕上げるのに集中した方が良さそうね。葉の形はまだ整えられる。飾ることを考えるなら土台を少し広げた方が安定するわね」
独り言を呟きながら作業台の周りをうろつき、せっかくの作品に穴が空いてしまうほど鋭い目線で幾度もチェックを重ねる。傑作を更なる高みへ昇華させようとするレミューリアの熱意に吸い寄せられるかの如く、大きな熱源が足音を立てて近付いていた。
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