雪消の候

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天端に開けられた小さな入り口からダムの内部に入り、何度も折り返しながら下に降りて行く。片側は水中、反対側は山の景色がモザイク状にぼんやりと写し出されている。 「前にも一回ここに入れてもらったことあるけど、凄く綺麗だよね」 「お兄ちゃん、見惚れてる場合じゃないよ。今頃下はどうなってるか想像も付かないんだから」 覚悟を決めて最下層に辿り着くと、その先の景色は白い靄に覆われて見ることができなかった。ケセルが翼をはためかせてそれを振り払うと、空気が循環して身も凍るような冷気が全員を包み込んだ。 「良かった。これなら大丈夫そう……じゃないな。全然」 ジークはあまりの惨状に手の平で両目を覆うしかできなかった。 ようやく開けた視界に先ず飛び込んで来たのはマグナの背と、それに対峙するレミューリアであった。そしてマグナの手に握られている氷のオブジェらしきものはドロドロに融解してすっかりくたびれてしまっている。 背景を知らない四人から見てもマグナがレミューリアの私物を壊したことは明らかであり、そうでなくともレミューリアの様子を見て何事もなかったと判断する者はこの世界には存在しないと思えるほどであった。 「だから、出て行きなさいって言ったじゃない……」 その声はとても静かなものであったが、決して穏やかなものではない。音に反応した鼓膜の振動が電気信号に変換され脳に伝わるよりも早く、そして鋭く、心が揺さぶられる感覚が四人の背筋を走り抜ける。 「ごっ、ごめん!俺は別にそんなつもりじゃなくて……」 「だから何。わざとじゃなければ良いの?」 「いや……」 「そう言えば、アンタ知りたがってたわよね。私に嫌われてるのかどうか」 これはもう、どう言葉を尽くしても取り返すことはできない。それを告げるかの如く、マグナに最後の審判が言い渡された。 「私はアンタが、大っっっっっ嫌いよ!!!」
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