雪消の候

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ダムを抜けた後も気は抜けない。唖然としている湖のラルフィに声を掛ける時間も惜しんで逃げ通し、ようやく足を止めたのはヴァイス達の農園であった。 「お、お邪魔します……」 「さっきぶりってやつだね。今度は随分と人数が増えたみたいだけど」 司は他の皆と共にまたしても木陰に案内され、心配そうにしているフランソワと怪訝な面持ちのポールに見守られながら事情の説明を余儀なくされた。 「時間を掛けて解決していくものとばかり思ってたけど、これまた急転直下なことになったね」 「だってよお、避けられっぱなしでずっと我慢してろとか無理じゃん!」 「気持ちは分かるけど、レミューリアは君のそう言うところが苦手なんだと思うよ」 「うぐう……」 既にトラブルが起こってしまった後となっては、ヴァイスも直接的な表現で咎めざるを得ない。更にこの件を司から事前に聞いていたポールが一歩前に出て話の輪に入って来た。 「君が……マグナだね」 「え、誰?」 「フランソワの……友達だよ」 そして何より、過ぎ去る時間と共に変わって行く兄弟のリアルを知る者でもある。ポールはかつて司に語ったように自分が気の合わない弟と疎遠になった経験の持ち主であることをマグナに語り、最後に無理をするべきではないと付け足した。 「こう言う関係の拗れ……その大半は『良し悪し』じゃない、『合う合わない』なんだよ。君が悪いわけじゃない。そのレミューリアって子が悪いわけでもない……多分」 レミューリアの方からマグナに攻撃的な言動や行為を仕掛けるようなことはない。ならば、マグナも踏み込むようなことさえしなければトラブルは決して起こらない。そうポールは諭すが、幼いマグナは当然納得しなかった。
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