雪消の候

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「どうして彼女にやらせるんだ」 「それが一番適切だと思ったからです。フランソワは……いや、姉妹三人は互いのことを愛称で呼ぶんですよ。フラン、レミィ、ラルって具合に」 「そんな仲睦まじい関係を利用して、危ない仕事をやらせようって魂胆が気に入らない」 「……貴方が気に入るか気に入らないかじゃないです。フランソワが引き受けてくれるかどうかですよ」 「フランソワは引き受けるだろうさ。他ならない兄弟のためだ。それを分かっていて、剰え付け込むような真似をするのは見過ごせない。血縁に比べたら僕の立場なんて外野も良いところだけど、それでも友達だから言わせてもらう」 ポールがフランソワを想う気持ちに屈託はない。生半可な主張では、芯の通ったその心に太刀打ちすることはできないだろう。しかし司とて安い気持ちでフランソワを抜擢したわけではない。 「……」 一呼吸と、体の中にある形のない感情を頭に吸い上げて言語化するだけの僅かな間を挟んで司は口を開いた。 「貴方はフランソワの友達なのでしょうけど、僕は兄弟全員と友達になりたいんです」 「じゃあ君はそのマグナとレミューリアって子の仲を取り持つために、フランソワとレミューリアに蟠りを作っても良いって言うのか」 「正直、それも覚悟してます」 「何だって……!?」 矢面に立ったフランソワに辛い思いをさせても良いのか。そんな言葉に司がたじろげば、一気に押し切るつもりだった。しかし司はまるでそう言われることが分かっていたかのように切り返した。 「僕が提案してるのは特効薬の処方じゃありません。マグナが直面してる困難を全員で共有することです。上手く行くとは限らない、余計に拗れるかもしれない。レミューリアにまた嫌な思いをさせたり、フランソワにだって迷惑を掛けるかもしれない……それでも、やるべきだと思ってます。足掻いて、藻掻いて、それでもやるだけやるべきです」
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