雪消の候

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「……めちゃくちゃじゃないか。ちょっと、僕には理解できないな」 ポールは司の信念に少し引いた。それに伴って、フランソワのために突っ張っていた精神にも後退が見受けられた。 「そうだと思います。この意志を貴方には理解できない。貴方が選ばなかった道だから」 「……!」 成長するにつれて段々と気が合わなくなってしまった弟を繋ぎ止める努力をしなかった。成り行きに任せた結果、今でも疎遠のままとなっている。マグナに現実を受け止めさせるために話したポールの過去は、参考ではなく教訓にすべきだと司は主張した。 「は、はは……僕は反面教師ってことかい」 「そこまでは言いませんけど、でもやっぱり、ベストな判断だったとはどうしても思えないんです。ましてや、内心薄っすらじゃなくてこれだけ仲良くなりたいと主張してる人が目の前にいるのに」 「良いよ……分かった。フランソワがやるって言うなら僕は何も言わないよ。僕もできるなら見てみたい……僕にできなかったことが成し遂げられる瞬間を」 遂にポールが司の意見を認め、道を譲った。口調もいつも通りに戻り、周囲には湿っぽいオーラが立ち込めて瞼も半開きになった。 「それにしても、随分と入れ込むね。決して嫌味で言うワケじゃないけど……君の立場と釣り合った熱量だとは言い難いよ」 「ポールさんの言った通りですよ」 「ええっと……どこで言ったのと?」 「自分にできなかったことが成し遂げられる瞬間を見たい。僕もその一心です」 司はこの世界に来てから、引っ込み思案で口を噤みがちだった自分を段々と少しずつ克服してきた。その賜物として、自分の思ったこと感じたことを口に出して確りと喋ることで、自分でも気が付いていなかった深層心理を炙り出すと言うテクニックを身に付け始めていた。 そして今回も、ポールに想いをぶつけている間に自覚することができた。自分がここまでマグナに肩入れするのは、自身の無念を果たす為でもあると言うことを。
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